00 耐震診断
阪神・淡路大震災の辛い経験を経て、建築物の耐震性への取り組みが、建築に携わるモノの大切な責任として再認識されるようになりました。 阪神・淡路大震災における建築物の被害を見ると、現行の耐震基準施行以前に設計された建物に大きな被害が集中しています。こうした事実を背景に平成7年10月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が公布制定され、建築物の地震に対する安全性の向上がはかられることになりました。
建築物は所有者にとって資産として健全なものでなければなりません。また同時に、建築物は入所者、または利用者にとって生命の安全を確保する場所でなければなりません。耐震診断はこうした建築物の保全と安心に対する有力な指標となることでしょう。
00 耐震補強
平成7年10月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が公布制定され、学校、病院、劇場、百貨店、事務所など「不特定かつ多数の者が利用する一定の特定建築物」について、耐震診断や耐震改修を行うよう「努力義務」「指示」が課されることになりました。
一方、耐震改修をしようとする者は、所管行政庁に「認定」の申請をすることができ、認定を取得した場合、建築基準法の特例措置など様々な緩和や支援を受けることができます。 このように阪神・淡路大震災の教訓を受けて、建築物の耐震安全性の向上は、政府主導によって積極的に推進されています。しかし、中央による制度制定は先行しているものの、実際の耐震改修業務に精通した技術者は少なく、設計や手続きに様々な混乱を発生させているのが現状です。
00 お住まいの耐震性に不安はありませんか?
お住まいの耐震性能に不安を感じたことはありませんか?
例えば、分譲集合住宅を考えてみましょう。古いマンションだから、耐震性が劣るのではないか・・・? 外壁に無数のひび割れがあるけれど、地震の時にはどうなるだろう・・・? 入り口が開放的なのはよいけれど、1階部分は柱とガラスばかりで(ピロティ)、大地震が起きたら潰れてしまうのではないか・・・? 阪神・淡路大震災を報道するショッキングな映像を見て、1度ならずそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。

改めて述べるまでもなく、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、戦後最大の震災被害として長く記憶にとどめられるばかりでなく、地震災害に対する都市の脆弱性への重要な警鐘といえるでしょう。地震災害に対する根本的な対策は、都市計画から積み上げねばならない大きな問題です。ただし、それは莫大なコストと時間をともなうものだけに、個人レベルでの安全を確保するためには、各自が各自の必要性を考え、対策を練ることが要求されます。



00 簡単にチェックしてみましょう
お住まいの耐震性能を正しく判定するためには、正規の調査を行った上で、建設省等の告示指数に則って検討する必要があります。しかしその為には、相応の調査・判定費用がかかることになります。そこで、正規の耐震診断を行う必要があるのか否かを判断するために住まいのチェックをしてみて下さい。
00 日本の耐震設計の歴史
日本の地震についての研究は、明治13年「日本地震学会」、明治24年「地震予防調査会」などの発足を始まりとします。建築的には大正12年の関東大震災を契機に取り組みが開始され、翌年制定の「市街地建築物法」の中に耐震規定が基準化されるようになりました。
戦争を挟み、昭和25年に建築基準法が制定され、その中に、許容応力度法の耐震設計(建物に水平方向から力を加えたとき、材料の許容応力の範囲内で収まるように設計する方法)が制度化され、以後昭和56年5月まで31年の長きにわたり、日本の耐震設計の根幹を担ってきました。この間、新潟地震、十勝沖地震による検討結果を踏まえ、昭和46年5月にせん断設計基準の改定を主とした基準法の改正が行われていますが、あくまでも改定のレベルにとどまっています。

昭和56年6月に施行された「新耐震設計法」は終局設計法を取り入れ、建築物の耐震性能を大きく向上させました。しかし、反面それ以前の基準で造られた建築物の安全性についての問題がクローズアップされることになり、「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・耐震改修設計指針」に基づく耐震診断・耐震改修の奨励が図られ、現在に至っています。
00 耐震診断を必要とする建築物
施 行 期 間 診断の必要性
旧耐震設計 昭和25年 〜昭和46年4月
旧耐震設計 (せん断基準の改定) 昭和46年5月 〜昭和56年5月
新耐震設計 昭和56年6月 〜現在に至る
00 耐震補強設計/耐震改修設計
耐震診断の結果により耐震補強が必要であると判断された場合、耐震補強計画を作成します。その際、建物の現有保有耐力や構造特性により、補強計画も異なってきます。補強を行う際の主な方向性には、下記のようなものがあります。



柱を太くする
柱に鋼管・カーボン材を巻き付ける
耐震壁を増設する
耐震ブレースを増設する
腰壁を撤去する
スリットを入れる
上記項目の組み合わせ
補強計画は、その建物の用途、現状の使用状況、補強後の使用方法等を考慮しながら進めることになります。例えば、ピロティが地震に弱いことが明確でも、通路部分に壁を設ければ建物への出入りに支障をきたすことになります。また、南壁面にブレースを入れれば、日照が少なくなり居室の快適性が損なわれます。そうした問題を1つ1つクリアし、建物の耐震強度を高めていくのが耐震補強設計なのです。
更に、耐震補強工事にともなう解体工事、設備工事、仕上げ工事を含めた改修工事として、全体の改修設計を行います。
00 耐震改修工事に対する補助金制度

近年、耐震改修工事にかかわる助成制度が前進し、工事の際の補助金も拡充されました。何点かのステップをクリアした場合、耐震改修工事費総額の13.2%が、国と地方公共団体から補助されます。ただし、1m2当たり47,300円が補助事業費の単価の上限となります。具体的な金額としては、下記のようになります。

< 例 >
建物概要:RC造、地上6階、延床面積5,000m2の事務所ビル
竣 工 :1975年(築24)
工事内容:ブレース、壁増設による一般的な耐震改修工事
工事費用:2億2,500万円


補助金額:本件の場合、1m2当たりの工事費単価が45,000円で、上限である1m2あたり47,300円を下回っていますので、耐震改修工事費用2億2,500万円の13.2%である約2,970万円が国及び地方公共団体から補助されます。
2億2,500万円×13.2%=2,970万円

この補助金を受ける場合には、次の3つのステップをクリアすることが必要になります。

ステップ 1 建築する場所が補助対象の指定エリアであること(指定エリアは地方公共団体で確認する必要があります)
ステップ 2 建物が下記の3つを満たしていること
建設時 原則として昭和56年5月31日以前に確認申請を得て建築された建物であること→現行の耐震基準以前の建築物であること
用   途 災害時に重要な機能を果たす建築物、もしくは災害時に多数の者に危険が及ぶおそれのある建物であと→ 基本的には病院とか百貨店のような人の集まる施設が中心ですが、マンションや事務所も対象となります。
面   積 次の4つの条件全部を満たすこと
敷地面積がおおむね500m2以上であること
・原則として地上階数3階以上
・耐火建築物または準耐火建築物
・延べ面積1,000m2以上
耐震改修促進法の認定を受けること
耐震診断の結果を踏まえ、建築物の耐震改修の促進に関する法律に基づき、所轄行政庁から建築物の耐震改修計画の認定を受け、当該認定計画に基づく耐震改修を行うこと
上記のステップについて、煩雑な印象を受けることと思います。しかし経験ある設計事務所のコンサルティングのもとに順次ステップアップすることで、条件さえ正しく満たしていれば、最終的に補助を受けることが可能となります。
00 耐震診断・耐震補強設計の費用と補助制度
一般建築物・マンションの耐震診断費用は、下記の要因によって異なります。
建築物の規模/階数
建築物の形状
建築物の構造
診断の程度/内容
現地調査の程度・内容
設計図書の有無
したがって正確な金額を算出するためには、物件ごとに見積書を作成し、決定する必要があります。正規の料金は、建築基準法に基づく建設省告示第1206号に準じて、調査/試験の内容ごとに積み上げて算出することになりますが、おおよその概算として、延べ面積に対して、700円/m2〜2,000円/m2程度が目安となるでしょう。
なお、木造戸建住宅の耐震診断費用は、15万〜30万程度です。また、(財)建築防災協会等がまとめた簡易耐震診断法もあり、ごく簡単な耐震診断ですが、その場合5万円を目安に調査することができます。
※ 建築物に要求される重要な特性は2つあります。
1つは建築物は、居住者、入所者、または利用者にとって「生命の安全」を確保する場所でなければならないということです。建築物は「人を守る場所である」というのが、発生の根元にあります。つまり、建築物は存在し続ける以上、予想しうる震災被害に対して、それに耐えうる耐力を持っていなければなりません。倒壊した建物によって人が殺められるという事態は、建物の基本的な特性としてあってはならないことなのです。
もう1つは、安全を確保しつつ建築物は所有者にとって「資産として健全」なものでなければならないということです。阪神・淡路大震災において、旧耐震設計法で設計された建物の被害は、修復不能とされたものの大部分を占めています。もし皆様が資産としての建物を所有しているのならば、その建築物がどの程度の耐震性能を保有しているのかを把握することは、建物の資産性を理解するのと同じことなのです。
★ 耐震診断はこうした建築物の保全と安心に対する有力な指標となることでしょう。
 

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